近年の我が国は、いくつもの大震災を経験してきた。
東日本大震災からは14年、阪神淡路大震災からは30年。
さらに、昨年の正月には能登半島地震が発生した。
能登半島については、昨年(2024年)9月21~22日にかけ大雨に襲われたため、
震災復興がままならない事態が続いている。
大地震の発生については、『日本書紀』で描かれる416年の地震が記録のある最古のものとされるが、
それ以前にも数々の地震が周期的に発生してきたことは広く知られる。
なお、416年の地震については、次のように紹介されている
(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)。
「416年8月22日 允恭地震―遠飛鳥宮(大和国/現・奈良県明日香村)付近で地震。」
さらに、今後の大地震について政府の地震調査委員会は、
今後30年以内に震度6弱以上の激しい揺れに襲われる可能性のある地域を
予測地図として公表している。
いつ、どの場所で、どの程度の地震が発生するかの正確な予測は現段階では困難、とされているので、
どこに住んでいるかは問わず、大震災に備える防災(減災)と復興の手立てや知の蓄積は、
待ったなしの課題と言ってよいようだ。
では、教育分野の課題にはどのようなものがあるか。
ここでは、東日本大震災の復興過程を事例として考えてみることにしよう。
筆者は現在、東日本大震災からの14年間を振り返る作業を進めているが、
焦点を当てているテーマの一つは「震災による子どもの社会的孤立」の問題である。
なお、「社会的孤立」問題に対処するため、
内閣府には孤独・孤立対策推進室が設けられ(令和3年2月)、
平成6年4月19日に公表された同室の「孤独・孤立対策重点計画の策定に向けて」によると、
「孤独・孤立」が課題化した背景は、次の二つにあるとされる。
(1)社会構造の変化(単身世帯の増加、働き方の多様化、インターネットの普及など)により、
家族や地域、会社などにおける人との「つながり」が薄くなり、
誰もが孤独・孤立状態に陥りやすい状況
(2)コロナ禍による社会環境の変化、孤独・孤立の問題の顕在化・深刻化
ところで、大震災では、子どもや高齢者、女性などなどの社会的弱者に被害が集中する傾向があり、
世界に広がったコロナ禍でも子ども、高齢者等や貧困地域で大きな被害が発生している。
ユニセフ等の国際機関が詳細なデータを公にしている。
東日本大震災では、復興庁は、
「震災で親を亡くした子どもへの支援の状況について」(2015年)
で次のような実態を公にしている。
●震災で親を亡くした子どもの状況
〇震災孤児(震災で両親ともなくした児童)
岩手県 94人、宮城県 126人、福島県 21人
合計 241人
〇震災遺児(震災でひとり親となった児童)
岩手県 489人、宮城県 882人、福島県 166人
合計 1537人
社会的孤立の概念には、社会参加、社会的相互作用、社会的サポートの
3要素が含まれるとされるが(都立大 阿部彩氏)、
次回には大震災で親を亡くした子どもたちに焦点を当て、
「社会的孤立」の実態や対応策について考察することにしよう。
【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。大学教員として46年間過ごし、
現在は東京学芸大名誉教授、 国立教育政策研究所名誉所員。
千葉教育創造研究会(隔月1回会合)に40年以上参加し、
さまざまな世代の教職員と「教育のこれから」をテーマに探究を進めてきた。
また、「災害文化研究会」(岩手大学工学部が組織化)や
「縮小社会研究会」(京大工学部等が組織化)に所属し、
縮小社会や大震災のもとでの教育について研究を進めている。
地域復興などに際して教育が持つレジリエンス(回復力、弾性力)に関心を持つ。
<これまでの経歴や著書、論文等>
https://bunkyo.repo.nii.ac.jp/records/7687