小論文指導の第一人者・堰免善夫先生の教育・文化随想 「響きあう魂・今パリに満開する日本文化」(ネオ・ジャポニズム) 筆…

小論文指導の第一人者・堰免善夫先生の教育・文化随想

「響きあう魂・今パリに満開する日本文化」(ネオ・ジャポニズム) 筆者:堰免 善夫
2019年3月1日(金)

 2018年、フランス・パリの街中が「日本文化」一色に染まった。
 「能」「歌舞伎」「茶の湯」「漆器」「陶磁器」「和太鼓」「着物(和服)」などの伝統文化だけではない。「日本酒」「活けじめ魚料理」「回転寿司」「和菓子」「弁当」「ラーメン」などの食文化、さらに「マンガ」および「マンガ喫茶」にまで至る。そして極めつきは「清掃ボランティア」である。
 今、パリは、ものすごい勢いで日本文化が満開している。なぜ、フランス・パリは、今また「新ジャポニズム」なのであろうか。


1.ジャポニズム(日本文化愛好)
 19世紀パリ万国博覧会において、多くのフランス人は、初めて「日本文化」を知った。そして「和服」「浮世絵」「日本家屋」などの美しさに、一様に目を見張った。フランス人の日本文化に対する美意識は実に洗練されている。和服を、単なる民族衣装として評価しているのではない。西陣織や友禅染などの奥ゆかしい「芸術美」を洞察してのことである。特に「浮世絵」「美人画」「やまと絵」「水墨画」などの日本画への理解については、実に深く、哲学的理解にまで至っている。モネをはじめ、ゴッホ、ルノワールなどは、喜多川歌麿、葛飾北斎、歌川広重、さらに尾形光琳にまで愛好の心を向けていた。パリ郊外ジヴェルニーのモネの家の2階には「ジャポニズムの部屋」があり、それら作家の日本画が多量に飾られていた。モネの日本画への心酔ぶりが偲ばれる。これが第一次ジャポニズムである。
 その後、パリでは日本文化が徐々に浸透していった。それには、画家・藤田嗣治、彫刻家・荻原碌山をはじめ、詩人・堀口大学、女優・岸惠子、シャンソン歌手・岸洋子、そして最近では、中村江里子、辻仁成など、日本人のパリでの活躍が大きく貢献している。

 一方、フランス人では、大正時代の駐日大使、詩人のポール・クローデルの日本文化理解・流布が実に大きい。数年にわたる日本滞在中、クローデルは、休暇のたびに京都・奈良を訪れた。木造建築、工芸品はもとより、日本画については「平重盛像」などの肖像画の価値を新たに発掘したほどである。のちにクローデルが、「どうしても滅んでほしくない民族がある、それは日本民族である」と語ったことは、つとに有名である。
 そういえば、もっとも古く日本にやって来たキリスト教宣教師のフランシスコ・ザビエルやルイス・フロイスなどは、等しく次のように述べている。「東洋の果ての島国日本は、未開の地と思っていたが、我々西欧より優れた文化を持っていたとは驚嘆であった。そのような日本を外国人がキリスト教国にするなど、到底不可能である」と。
 最近では、ドラ・トーザンが果した役割も大きい。彼女は、日本とパリの両方に住み、誰よりも日本文化を深く理解し、愛している。両国文化に関する多くの著作があるだけでなく、NHKの講師としても有名である。
 このように、日本文化を深く理解するフランス人は多い。その根本的理由については、「深化された哲学」がある。それは「日本人とフランス人の魂は響きあっている」ということである。日本人とフランス人は「魂を共有している」のである。

 ところで、フランス人が言うところの「魂」とはなんであろうか。英語では@Soul(霊魂)ASpirits(精神)BLife(生気)CGhost(亡霊)などを意味する。このうち「魂」に最も近いのは、@Soul(霊魂)であろう。フランス語では、魂は「âme」として独自に存在している。精神「Esprit」とも、心「coeur」とも違うのである。
 その魂は、「偉大な何か」であり、フランス人においては「人間の中に存在する」とし、日本人においては「自然の中に存在する」としている。「魂の在り処」について、両者の意識は正反対の両極である。しかし、「人間は自然の一部」「人間と自然は不二」とフランス人も哲学している。それゆえ、両者の「魂」はマリア―ジュ(コラボレーション)する。だから、フランス人と日本人の「魂」は「響きあう」のである。したがって、「死(見えない世界)」と「生(見える世界)」が冥合する芸術、「能」についての理解は、フランス人に勝るものはいない。

 「両極だからこそ響きあう魂」は生活感にも及ぶ。
 フランス人の生活信条は「バカンス・享楽」であり、日本人のそれは「勤勉・労働」である。しかし、フランス人は「バカンスのために働くことが必要」とし、日本人は「働くために余暇を必要」とする。目的・手段が真逆のため、両者には大きな隔たりがあるように思われる。しかし、フランス人は日本人の勤勉さを敬愛し、あこがれる。一方、日本人はフランス人の余暇のあり方にあこがれ、羨望するのである。ゆえにこそ、フランス人と日本人は求め合い、響き合うのである。フランスおける「ジャポニズム」の根底には、かくのごとき心情哲学がある。
 この両者の響き合いは、「美意識」「美学」においても、全く同様のことが言える。フランス人は、「華麗・豪華な美」を追求し、ベルサイユ宮殿や、近代油絵画を創造した。一方、日本では、黄金を多量に産出しながらも「簡素・清潔の美」を追求し、水墨画などの日本画や茶道芸術を創始した。
 その後、第一次ジャポニズムはさらに、ドガやゴーギャンの絵画にも摂取され、さらにドビュッシーは、北斎の『神奈川沖浪裏』を、その音楽『海』に変身させたといわれる。こうして、日本文化はフランス人、パリ市民の生活の中に次第に浸透。200年後の21世紀に、第二次ジャポニズムが再び満開し、波のうねりとなったのである。
 この「ジャポニズム2018」は、2018年から2019年にかけて開催された。しかし、その準備はすでに数年前から着々と行われ、日本文化の蕾は水面下で着実に愛育され続けていたのである。その経緯は以下のとおりである。


2.ネオ・ジャポニズム
(1)パリの街・清掃ボランティア
 世界一華やかな美しい花の都パリであるのだが、実は「ポイ捨てゴミ」は目を覆い、鼻を被うばかりの汚さであった。パリのゴミは観光客が捨てるのではない。パリ市民が捨てるのである。特に法律で屋内・室内喫煙が禁止されたので、外の街のいたるところにたばこの吸殻が捨てられ、まさにゴミだらけ。それに気がついた観光客は、「美しい風景にうっとり、汚いゴミにがっかり」であった。
 そこで、かなり前から、日本のボランティア団体「グリーン・バード」のパリ支部の人々が「清掃グループ」を発足させ、パリ中の掃除を始めていた。最初のうちは奇異の目で見られていた。それどころか、いたる所から非難の声が上がった。「清掃は自治体の行政である。そのために市民は税金を払っているのだから、自治体清掃員の仕事を奪うな」というのである。しかし、毎日3,000トンのゴミは、少数の清掃員だけで処理できるものではない。パンをはじめとする食物ゴミにより、パリ中のいたるところでネズミが急増していった。それでもパリ市民は何もしない。これがフランスのお国柄である。
 一方、日本では小学校から高校まで、学校では必ず全員清掃時間が課せられている。フランスでは学校で生徒が掃除することはない。清掃による清潔は、日本の国柄・日本文化そのものである。数年にわたる日本人ボランティアの地道な清掃活動に、とうとう一人、また一人とフランス人が参加し、いまではフランス人の清掃ボランティア団体がいくつも組織され、自主的に活動がおこなわれている。
 それに呼応して、環境保護活動は、フランス各地の企業・会社にも導入された。多くの社員がオフィスの各階にゴミ箱を設置し、自分たちの手で清掃するようになった。各自治体や企業でも、清掃道具購入の予算が計上されるようになった。実は、日本文化のフランス文化への最大の影響は、「清掃ボランティア」なのである。

(2)食文化産業
 これまで「フランス料理」こそ世界最高の食文化とされてきたが、日本食文化により、大革命が起きている。その先駆は、なんと言っても「活魚の活けじめ」である。
 フランスには「鮮魚・刺身」の食習慣がなかった。パリにいちばん近いノルマンディのキブロン漁港ですら500kmも離れているからである。魚介類は「トラックの生簀」で運搬していたが、どうしても鮮度が落ちる。そのうえ、「活けじめ」の方法を知らないため、「刺身」はもとより「カルパッチョ」でさえ美味とはいえない。だから、魚料理はどうしても「鱸のポワレ(蒸し焼き)」的にならざるを得ない。フランス料理界は、長い間、試行錯誤した結果、その道の先輩・師匠たる日本から「活けじめ」のプロを招き、何日にもわたり研修を受けた。
 「活けじめ」とは、魚の鮮度を保つために、神経を絶つと同時に血抜きをする工程である。この技術に、フランス人シェフたちは驚嘆し、神業とたたえた。新鮮な生の魚料理が「フランス料理」に一大革命をもたらしたのである。
 マドレーヌ教会近くの、パリで最も古く、最も美しいレストラン。フランスでは伝説の三つ星レストラン『ルカ・カルトン』のシェフは、すぐさま「和食風フレンチ」のメニューを次々に創生。伝統の上に幾重にも新しい伝統を重ねていった。また、フレンチレストランの名店中の名店、『ルドワイヤン』の中には、寿司カウンター「L'Abysse(深海)」も新設された。
 そして、この日本的「鮮魚料理」に最も合う飲み物は、なんといっても「日本酒」である。昨今、フランス料理にも日本酒が合うことがわかってきた。特に、世界のどこにもない「燗酒」は、フランス人にとって新鮮な驚きであった。体温と同じ約37℃の熱い日本酒が「チーズ」に合うことも発見された。透明に澄んだ日本酒を、美しい日本製の漆器や陶磁器の「器」で飲むことに、フランス人は初めて目を開かされたのである。
 マリア・テレジアが大切に保持し、その娘、マリー・アントワネットへと引き継がれ、トリアノン宮殿に飾られていたという、中世日本で作られたあの美しい漆器は、「杯・盃(さかずき)」として、このように使うものであることをフランス人はあらためて知り、フランスの食文化に大革命がもたらされたのである。
 フランスの食文化には、「分けあって食べる」という文化はない。だから「鍋」をつついて一家団欒の日本文化など想像ができない。ゆえにこそ、「回転寿司」がまたたく間に流行する。回転しているネタの中から食べたいものを取る日本式の回転寿司にならい、流れてくる具材を各自の座席に設置された鍋に入れて楽しむ、ひとり鍋スタイルができあがっている。
 一方、スウィーツの分野では、いちばん洋菓子に近い和菓子、「どら焼き」が人気No.1である。生地にバターを使わないので、身体にも良い。パリで人気があるのは、旬のフルーツを美しく飾りつけた「どら焼き」である。そして今、パティシエたちは、日本の「餡(あんこ)」のフランス風改良を競い合っている。
 ランチには、日本の「弁当」が流行中である。「弁当屋」も次々に開店し、繁盛している。その中身は、純フランス風、仏日折衷、純日本風とさまざまである。箱に多彩な料理を詰め、好きな場所で好きな人々と食べるという楽しい発想は、フランス人の常識を超えた驚愕の食文化といえる。
 音をたてて食べるのが絶対否のフランスにあって、若者たちの間で大きな音でラーメンをすするのが流行しているのもまた、驚きの現象である。

(3)マンガ文化の流行 
 パリでもマンガは読まれている。ところが、パリのマンガ本の1/3は、フランス語に訳された日本のマンガである。そして近頃は、フランスで生まれた、フランス人作家が描いた日本的マンガが流行中である。これを「マンフラ」と呼んでいる。
 日本マンガは、「マンガ喫茶」の流行とともに、まさに独自の進化を続けていると言ってよい。マンガ・キャラクターの弁当箱の流行は、まさに、その極みといえる。

 以上が、21世紀のフランス・パリに満開している、主要な「ネオ・ジャポニズム」である。
 現在、和食は世界一の食文化と認められ、フランス料理に劣らない。かくのごとく日本文化は優れている。それをフランス人が証明しているのである。
 フランス・パリの象徴である「エッフェル塔」のすぐ近くに「日本文化会館」がある。


(参考)2018年12月28日(金)NHKBSスーパープレミアム『日仏友好160年 とことんフランス!』より

著者プロフィール

堰免 善夫 (せぎめん・よしお)
長野県生まれ。中央ゼミナール(東京・高円寺)で国語科講師として活躍。小論文、現代文を担当し約40年間勤務。中央ゼミナール監事・役員・小論文主任講師の他、大学新聞社就職コンサル塾副塾長、東京国際学園特別顧問を兼任。
近年は全国の高等学校での高校生、保護者、高校教師対象の講演だけでなく、大学生向けの就職支援の講演会にも登壇している。


◇著書
『古の琴歌(いにしえのことうた)』 (小説作品集) 1987年5月
『知見の旅路』 (思索論文集) 1997年5月
誰にでも書ける 小論文学習の決定版 最も効果的な指導・学習法』 (大学新聞社) 2013年3月
『我が心の久遠・哀愁のヨーロッパ・憂愁の京都』 (紀行随想) 2013年12月

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