小論文指導の第一人者・堰免善夫先生の教育・文化随想 「汎用人工知能による空前の大変革」 筆者:堰免 善夫

小論文指導の第一人者・堰免善夫先生の教育・文化随想

「汎用人工知能による空前の大変革」 筆者:堰免 善夫
2018年9月1日(土)

2018年4月発信の、進路ナビ「教育・文化随想」では、『「人工知能」・「人造人間」 VS 「心」・「人間」』と題して「人工知能は心を持つことができるか?」また「アンドロイド(人造人間)は人間になれるか?」について考察した。
人工知能を開発・研究する科学者たちは、それが実現する未来を予測している。その想像を絶する社会の大変革は2045年としており、まず2030年には、その前段階の「プレ大変革」が始まり、2060年頃には、それはほぼ完成するという。 

大変革後、ロボットが人間の労働を代行し、人間の各家庭に「自給自足」のシステムが導入できれば、貨幣流通は不要となり、お金はすべて無くなる。資本主義社会は崩壊し、人間の価値観も世界観も一変し、人類の文化、教育、宗教などの意義も価値も全く変わってしまう。
 そんなことが、今世紀中に本当に起きてしまうのであろうか。信じられない事態であるが、これまでの人類史を振り返れば、あり得ないこととは言い切れない。

 人類は、地球上に約25万年前に誕生したが、24万年間はきわめて原始的な生活をしていた。
 今から約1万年前に、農耕のうこう牧畜ぼくちくが始まり、最初の大変革を迎えた。次に、約2500年前に、古代ギリシャで都市国家(ポリス)が生まれ、哲学者ソクラテスが活躍した。同じ頃、中国では孔子が儒教を、インドでは仏陀(釈尊)が仏教を展開していた。(この時期を、ドイツの哲学者・精神病理学者のカール・ヤスパースは【枢軸すうじくの時代】と呼んだ。)この時代も、大きな世界的大転換期であった。第3の大変革は、約250年前の産業革命期であり、機械文明時代の始まりである。そして、第4の大変革は、23年前、1995年の【情報技術革命】(コンピュータ、携帯電話、スマホが一般化した)時代である。万年、千年、百年、十年と、大変革スパンの劇的な短縮である。すると、第5の大変革、【汎用人工知能革命】は7年後の2025年から始まるとの予知は、実に恐るべき真実と言ってもよい。
 この第5の大変革時期を、専門用語では【シンギュラリティ(特異点)】と呼んでいる。その大変革(シンギュラリティ)以後に予想される社会について、実感は伴わないが、以下のごとく想像される。


1.汎用人工知能はんようじんこうちのう
4月の進路ナビのコラムで既述ではあるが、現在ではA・I(人工知能)は、クイズ、チェス、将棋、囲碁などの、フレーム(枠組み)のルールが確定されている分野においては、完全に人間の知能を超えている。それは、ルールに対する手順を、「完璧なプログラム」により完全にクリアできるからである。
 次の段階で、人工知能科学者が目指すのは、A・Iが「人間の知性」の全てを超えることである。どこまでも人間の振る舞いを真似て、ことごとく人間に似せ、限りなく人間に近接きんせつし、そして人類の知能を超越ちょうえつする。それができるA・Iこそが、【汎用人工知能はんようじんこうちのう】と呼ばれるものなのである。「汎用」はんようとは「すべてに広く使用できる」という意味である。
 汎用人工知能は、2030年から世に出るようになり、2045年には普及し、機能を果たし始める。そして2060年には、人間の日常の作業・仕事は全て汎用人工知能搭載のロボットがとってかわり、人間は労働しなくなる、と予想される。

 実際、すでに介護ロボットなどが導入され始めていることから、「実現可能」の確率はかなり高い。たとえば、福島原発事故後の処理において、人間に代わり放射能の影響を受けないロボットならではの活躍があったのを考えても、日進月歩の科学技術の進展を思えば、このような想像を絶する時代は本当に来るかもしれない。


2.社会経済の大変革
 すでに、日本のパナソニックでは素晴らしい「植物工場ビル」を作っている。野菜の畑や稲作の水田を、「栽培棚」として、建物内で縦に高密度で積み上げる技術を開発した。100mの高さのビル内に、水田を1mおきに100段積み上げる。太陽光の代わりに各棚をLED光源で照射する。光源、水質、温度、湿度を管理し、生育をコントロールする。種子の遺伝子操作により、促成栽培も可能である。12期作(1カ月に1度収穫)、24期作(1カ月に2度収穫)もできる。野菜や果物も同様に収穫できる。田植え、種付けから収穫まで、全てロボットによるオートメーションで行う。工場内栽培であるから、台風や旱魃かんばつなど気象の影響もない。
 無菌で安全、良質の大量のわらは、畜産・養鶏ちくさん ようけいの飼料として利用できる。
 魚介類についても、「近畿大学・水産研究所」ではすでに、大豆やトウモロコシ等の植物性タンパク質を餌として、マグロをはじめとする数種の魚類の完全養殖に成功している。
 食肉の分野では、近年の技術革新の大進展により、植物性タンパク質から生成する人工肉や、動物から採取した筋肉細胞を培養・増殖させてつくるクリーンミートなどが実現する時代に入っている。高級な松坂牛とまったく同様の味・風味・食感の、本格的美味の合成肉を口にできる日も近い。

 第5の変革が進むと、国から一家に一台、自給自足の「農作物・魚畜産物」小工場が支給される。その食材を「家庭用3Dプリンター」で調理する。電力も自家発電で賄う。無償公開された洋服デザイナーのデータをダウンロードして「家庭用3Dプリンター」で衣類も製作できる。かくのごとく、個人・各家庭が生産手段を保有することができれば、モノの流通は不要となり、単純労働は減る。すべて自給自足で生活でき、「貨幣が無くなる日」が来る。それこそがシンギュラリタリアン(シンギュラリティの実現を唱える人々)の主張であり、予知である。


3.人類社会の大変革
 何十年も前に『猿の惑星』(1968年アメリカ)という映画を観た。未来の地球が猿の世界になっている。ニューヨークの街は砂漠の地中に陥没して、危険な立ち入り禁止区域となっていた。「立入禁止区域はかつて人間の楽園だった。それを砂漠にしてしまったんだ。ずっと昔に。」「この惑星で人間より猿のほうが進化してしまった。」というセリフがあったことを覚えている。
第5の大変革シンギュラリティが本当に来たら、地球は、A・Iの惑星となってしまう。もしかしたらその兆候はすでにあらわれているかもしれない。現今の若者達の意識や価値観が大きく変わりつつあることである。

 @大学を卒業してもすぐに仕事に就かない若者がますます増加している。A高年収のトップクラスの大企業に就職しても、わずか数年で会社を辞め、国内外でボランティア活動に情熱を注ぐ若者も増加している。「なぜ、そういう道を選択するのか」の問いに対し、前者は「労働に意義が感じられない」「価値のない労働なら人間がしなくともよい」、後者は「出世して高収入になってもそれが何になるのか」「社会貢献しないと生きている気がしない」などの答えが返ってくる。事実、そのような若者は稀ではなくなった。身近にも存在するだろう。
 こうした段階を経て、近い将来に、人間が主役でなくなる社会到来の足音が聞こえるようである。

 【不労ふろう】の先にある究極の問題は【不老ふろう】である。人工知能を研究する科学者は、生命科学の進化の極致きょくちである【不老】は可能だと言う。
 有機体である人間の肉体が、他の素材に置き換えられていく。神から与えられた人間の肉体よりも、はるかに素晴らしい身体を造ることが近い将来可能になるのは確実である。 人間の肉体を造る材料は有機体とは限らない。シリコンでも金属でも可能である。実際、病気やケガの治療で、骨や関節を金属で支えている人や、内臓器官を機械で維持(心臓ペースメーカーなど)している人も多い。また、美容のためにシリコンで体型を変えることや、マイクロチップを体内入れることも受け入れられている。

 有機体である人体に無機物を取込んだり、生体テクノロジーを加えながら、次第にハイブリット化を進め、最終的には【人体に有機物は不要】となって【不老】が完成する、とのプログラムである。
 人間の最大の神秘である【生殖・成長・老化・進化】は今後、人為的ににコントロールできるようになる。それが今世紀、21世紀末の人間存在の状況となる。彼ら、シンギュラリタリアンは、そう考えているのである。

 もしそうなると、人間は根本のところから、人間にとっての「文化」「教育」「宗教」などについて真剣に考え直さなければなるまい。
 筆者の私自身は、無論、人間についての独自の思想があるので、上記の考え、予知を全面的に肯定するものではない。私観を言えば、【科学が人間を超えること】は決してない。ロボットが人間になることは出来ない。ロボットはあくまでロボットであり、人間はあくまで人間である。ではロボットではない人間の人間らしさとは何か。
 次回に、ロボットと人間を画然かくぜんと分ける、【人間の人間たるゆえん】について、私の考えを示すこととしたい。

(参考図書)『人工知能は資本主義を終焉させるか』PHP新書 著者・齊藤元章・井上智洋 


著者プロフィール

堰免 善夫 (せぎめん・よしお)
長野県生まれ。中央ゼミナール(東京・高円寺)で国語科講師として活躍。小論文、現代文を担当し約40年間勤務。中央ゼミナール監事・役員・小論文主任講師の他、大学新聞社就職コンサル塾副塾長、東京国際学園特別顧問を兼任。
近年は全国の高等学校での高校生、保護者、高校教師対象の講演だけでなく、大学生向けの就職支援の講演会にも登壇している。


◇著書
『古の琴歌(いにしえのことうた)』 (小説作品集) 1987年5月
『知見の旅路』 (思索論文集) 1997年5月
誰にでも書ける 小論文学習の決定版 最も効果的な指導・学習法』 (大学新聞社) 2013年3月
『我が心の久遠・哀愁のヨーロッパ・憂愁の京都』 (紀行随想) 2013年12月

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