人間工学って何を学ぶの?どんな仕事に就ける?学校の選び方は?そんな疑問を徹底解決!

人間工学に漠然と興味はあるけれど、具体的にどんなことを学ぶのか、学んだ先にどのような仕事に就けてどの業界で活躍できるのか、そもそも自分に向いているのか・・・などなど、疑問や悩みが尽きないかと思います。この記事では、人間工学の概要を始め、活かせる就職先、学校選びの方法など、人間工学に対するあれこれを解説しますので、ぜひご自身の進路選択に役立ててみてください。

人間工学とはどんな学問か

人間工学の基本は、人間の特性を理解し、その特性に合わせた最適な仕組みを工学的な観点で考えることにあります。「腰に負担がかからないように設計された椅子」、「指が痛くならないシャーペン」、「手にフィットするマウス」・・・身の回りにも、快適で使いやすい商品がいくつもあることが分かります。あくまで一例ではありますが、これらは、人間工学に基づいて開発されたものなのです。人間工学は、その名前の通り、人間と密接な関係があるため、製造分野を始め、航空産業、医療、ICTなど様々な分野に活かされています。日常生活や労働環境をより快適で効率的、そして安全・安心にすること、人々の健康保持・増進を社会的役割とする学問です。

人間工学で学ぶ領域

人間工学で学ぶ領域について、「何を」「どうやって学ぶのか」それぞれ解説していきます。

何を学ぶのか

そもそも人間工学とは、ヒトが仕事をするとき、最も疲れにくい筋肉の使い方を科学的に追及することから始まりました。人間工学的な工具や設備を使い、人間工学的な観点で身体にかかる負担を軽減することで、病気の予防や作業効率の向上、安全性など、あらゆる側面で貢献してきました。
1950年代以降、産業構造の変化に伴い、人間工学に求められる内容も変化しています。例えば、ひと昔前までは、農林漁業を中心とした身体的負荷がかかる労働が主流だったものの、最近はコンピューターを用いた労働が多くなり、低負荷拘束型といわれる作業形態が大半を占めるようになりました。加えて、最近では、日常生活でも眼や脳を駆使することが増え、目の疲れや精神的・神経的ストレスなどの多くの訴えがみられるようになりました。このように、労働場面での作業負荷対策のみならず、生活場面でも、電化製品の進化やユビキタス化(コンピューターやネットワークが至る所に存在し、使いたいときに場所を選ばずに利用できる)などの環境の変化に柔軟に適応するために、円滑な操作方法や仕組みの構築といった人間工学的な観点が必要とされているのです。
人間工学という学問は、人々の快適さや健康の保持、向上、安心、安全に貢献する学問ということがわかります。そのため、学びの領域や対象は多岐にわたります。人間工学が対象としているのは、「人間」についてはもちろん、「人間」以外の他の要素では次のようなものが挙げられます。

  • (a)作業・仕事
  • (b)道具・機器
  • (c)モノ・作業場などの設計
  • (d)物理環境
  • (e)組織・マネジメント
  • (f)文化・慣習・法規

これらの要素と人間が社会生活を営む上での様々な場面を掛け合わせてみると、人間工学の学びの対象がわかりやすくなります。以下の表は、人間以外の要素と各場面を整理したものになります。

領域 人間工学が対象としている「人間」以外の「他の要素」
(a)作業・仕事 (b)道具・機器 (c)モノ・作業場などの設計 (d)物理環境 (e)組織・マネジメント (f)文化・慣習・法規
労働場面 職務設計の適正化 工具・機器類の安全設計と負担対策 職場環境の安全衛生やワークステーション設計 職場の暑熱・騒音・振動・有害物質対策 適正な労働時間・休憩や交替勤務制 組織文化・安全文化やリーダーシップ
生活場面   少子高齢化を支えるための福祉機器設計やユニバーサルデザイン      
  小学校児童の発育に対応した教室設備・環境デザイン    
交通などの移動場面   高齢者・障碍者配偶型交通システム    
    環境負荷軽減型交通システムへの人間工学応用   ユニバーサルアクセスの公共交通基準作り
通信・コミュニケーション場面   使いやすいソフトウェアの画面設計       高齢者・障害者配慮のアクセシビリティ指針

参考:人間工学とは | 一般社団法人 日本人間工学会

どうやって学ぶのか

人間工学は、大学や大学院、専門学校で学ぶことが一般的ですが、学会の主催するセミナーへの参加、書籍など、さまざまな学習方法があります。学校で学びたい場合、人間工学が関係する分野は非常に多いので、人間工学とセットで何に興味があるのかを軸に考えると絞りやすくなります。例えば、「使いやすい住居」や「製品開発」に興味がある場合は、建設、設計、デザイン、人間を含めたシステムの最適化をはかる管理工学や経営工学、安全工学の一部として学ぶことができます。このほかにも、人間特性の理解を必要とする医療や福祉、被服系の学部、学科にも人間工学に関する授業があります。

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人間工学に関する資格・認定

人間工学には、認定人間工学専門資格制度という制度が設けられています。以下のように3つの認定資格が存在します。

1.認定人間工学専門家

認定人間工学専門家とは、人間工学の知識や技術、問題解決能力を十分に持ち、実践できると認定された人のことを指します。3つの認定資格の中で、唯一、国際人間工学連合(IEA)に認証されている資格です。主に、企業内での人間工学エキスパートや、大学など教育機関で人間工学関連科目を指導、教育している方が取得しています。受験資格は、「大卒で専門教育3年以上+実務経験2年以上」または「大卒+実務経験7年以上」です。

2.認定人間工学準専門家

認定人間工学準専門家資格は、一定水準以上の人間工学の知識や技術、問題解決能力を有する人材として認定される資格です。主に、大学で人間工学や学んだ方や大学院在籍者、実務をしている方が取得しています。受験資格は「大卒+専門教育3年以上」または「大卒+実務経験5年以上」の方が対象です。

3.認定人間工学アシスタント

認定人間工学アシスタントとは、人間工学の技能作業の場において必要な基礎的な専門知識を有することを示す資格で、実務をしている方が取得する認定資格です。受験資格は、短大・専門学校等で専門教育(6単位以上)を受けた方になります。企業研修等で同等の教育を受けた方も受験を認められます。

人間工学が活かせる分野

人間工学を学んでも、一体どう活かせるのだろうと気になっている方に向けて、主な就職先・業界についてご説明します。

製造業界

製造業は、材料を加工・組み立て、新しい製品を作り出して販売する産業です。いうまでもなく、世に出される製品は人間にとって使いやすく、安心、安全でなければならないため、人間工学での学びが非常に活かせる業界といえます。また、生産現場である工場などの環境改善にも人間工学的な視点が必要とされています。適切な室温設定を始め、照明、騒音、スペースの確保、作業台の高さ、動線、服装など、快適具合によって身体的負荷の度合いが変わり、結果、生産性にも影響が出るからです。

医療・福祉業界

医療業界では、主に医療機器の設計に人間工学の知識を活かすことができます。医療機器は使いやすさはもちろんですが、何よりも安全性が求められます。使いやすくて安全性の高い医療機器を設計するためには、人間工学的な知識が必要となります。また、福祉業界においてはユニバーサルデザインが人間工学を活かせる分野として挙げられます。ユニバーサルデザインとは、誰にでも理解しやすく使いやすい設計のことで、身近なもので例えると自動ドアや階段の手すり、多機能トイレなどがあります。これらのデザインに人間工学の学びを活かすことができます。

コンサルティング業界

コンサルティングとは、様々な課題や問題を解決に導くサポートをすることです。課題は企業によってさまざまですが、人間工学的な視点で課題を捉え、生産性を向上させたり、労働者の健康を守るためのコンサルティングをしたりする場合もあります。

インテリア業界

インテリア業界は、家具や生活雑貨など、住空間に関する商品を取り扱います。商品開発や販売はもちろんのこと、顧客の要望に合わせた空間デザインやオフィスのレイアウトの提案も行います。人間が使いやすい商品や過ごしやすい環境を提供するために、人間工学の学びが活かせるといえます。

IT業界

ソフトウェアやアプリケーション、WEBサイトを扱っているIT業界でも、人間工学の知識を活かすことができます。いかに複雑にせず、誰にでも使いやすく、分かりやすいものを作れるかは、人間工学的な視点があるかないかで大きく変わってきます。

研究機関・大学

人間工学そのものを研究するという選択肢もあります。その場合は、専門の研究機関に所属したり、大学で教員をしながら研究を重ねたりするなどのキャリアを積むことができます。

このように、人間工学を学んでおくと、一般企業でものづくり、製造、開発などに就くケースや研究者になるなど、「人間工学専門家」として、幅広く活躍することができます。

人間工学を学ぶのに向いている人

人間工学が向いている人には、いくつか特徴があります。これら特徴はあくまで学んでいくにあたって有利かもしれない程度の話であり、当てはまっていないからといって諦める必要はありません。あくまでも参考にしてみてください

人間の行動や身体機能に興味がある人

人間工学ですから、人間そのものに興味がある人にはまさにピッタリの分野です。「普段から人間観察が好き」「生理現象に関心がある」「メンタルやストレスなどの心理学的な内容に興味がある」という人にも人間工学は向いています。

さまざまなデザインやテクノロジーに興味がある人

空間デザインやインテリア、最新技術に興味がある人にもおすすめです。なぜなら、ヒトにとっての快適さや安全性、健康などと親和性の高い分野であるためです。

クリエイティブ思考が強い人

既存の問題に対して新しい解決策を見つけ出すことが得意だったり、試行錯誤しながらより良いものを作り出すことが好きだったりと、クリエイティブ思考の持ち主も人間工学を学ぶのに向いているといえます。問題点を見つけ出し、より良くすることが求められるからです。

多角的思考がある人

「こうするとどう影響が出るだろう?」「ミスを防ぐためにはどうしたらよいか?」など、ひとつの物事を多角的な視点で見ることができる人も人間工学と相性が良いです。また、先述した通り、人間工学は非常に多くの分野と関連があります。この分野ではどうか、あの分野ではどのような結果が出るだろうか、といった関わりのある他分野からの視点も重要になります。

人間工学を学べる学部・学科

人間工学と関連のある学問は、大きく以下の学問を挙げることができます。

心理学

心理学は、人間の心理について学び、科学的に解明しようとする学問です。人間の言動も学びの対象となります。人間工学は、第一に人間の特性を理解する必要があるので、心理学の中でも人間工学を学ぶことができます。

生物学

生物学は、人間をも含む生命現象を研究対象とする学問です。人間を生態的に知ることができ、人間工学的な学びに触れる機会も多いです。

工学

工学はものづくりの土台を学んだり、新しい技術を研究したりする学問です。電子機器や家電、電車などは、工学によって作り出されたものですが、これらを通しても分かるように安全性や快適性、利便性などが重要なため、人間工学的と接点の多い学問といえます。

デザイン学

デザインそのものの研究や知識、技術を学ぶ学問です。広告や製品、建造物、空間など、デザインが関わる分野は多岐にわたります。「視覚的にどうか」、「視認性が高いか」など、人間工学的な知見も必要になってきます。このように、人間工学は、非常に多くの分野と関連していることが分かります。

人間工学はどんな学校で学べるのか

人間工学は、基本的に工学系やデザイン系の大学・専門学校で学ぶことができます。注意点としては、一概に工学・デザイン系の学部とはいえ、製品開発に特化しているのか、まちづくりか、安全管理なのかなど、研究しているテーマによって、学ぶ内容が変わってきます。学部の説明やカリキュラムチェックし、自分自身に合う分野であるか確認することをおすすめします。また、人間工学は関わる分野が多いため、工学やデザイン系の学部以外でも、医学、建築、機械、電気電子、情報系など、それぞれの分野に特化した人間工学を学ぶことができます。

人間工学を学べる学校の選び方

人間工学を学べる学校の選び方について、解説していきます。

カリキュラムの内容を確認する

人間工学は広くさまざまな分野との関わりがある学問です。そのため、カリキュラムを確認し、その科目が自分の学びたい分野かどうか、方向性が一致しているかなど、しっかりと確認することが大切です。

卒業生のキャリアを調べる

卒業生がどのような職に就いているのか、どの業界で活躍しているのかを確認することも大切です。また、研究職を考えている場合は、卒業生がどのような研究に従事しているのか確認してみるとよいでしょう。

教員の研究業績を調べる

専門的な知識と経験を持つ教育がいるのかどうかも、学校を選ぶ上で大切な要素になってきます。また、自分の興味がある研究に関わっている教員がいると、さらに学びを深めることができます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。人間工学は、人間の特性を理解し、安心、安全、快適、健康をサポートする学問であることから、あらゆる分野や場面で必要とされています。「人間工学」を学べる学科がどのような学校にあるかは、大学・専門学校の専攻やカリキュラムを調べてみないと分かりません。まずは、「進路ナビ」の学校検索機能を利用して、資料請求をしてみてください。詳しいパンフレットを取り寄せることができます。ほかにも、興味のある分野や通学希望エリアを選ぶだけで進路アドバイザーから無料でおすすめの学校情報をお届けします。条件も細かく選択でき、自分に合った検索結果を絞り込めるので大変便利です。ぜひ一度チェックしてみてください。また、進路について悩んでいる、興味のあることを勉強するための選択肢がわからないという方もぜひご活用ください。

進路ナビでは、人間工学について学べる大学をご紹介しています。人間工学を学んで、ものづくりやデザイン、IT、福祉などの業界を目指している方は、以下のページから大学や専門学校を探してみましょう。

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