「教師の勢力資源―『熟練性』と『明朗性』」筆者・苅間澤勇人 更新日: 2025年3月22日
高校生のための進路ナビニュース
文部科学省(2024)の発表によると、
小中高校における不登校の増加に歯止めがかからない状況が続いています。
学校現場では、不登校生徒への対応に追われる日々を送っていらっしゃるのではないでしょうか。
さて、今回は教師の「熟練性」と「明朗性」についてお話したいと思います。
この2つの勢力資源を的確に表現している言葉として、
作家・井上ひさしさんの以下の名言をご紹介します。
「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、
おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」
私は教師として、この言葉を日々の実践に取り入れるよう心がけています。
難しいことをそのまま難しく伝えるのではなく、
内容の本質的な面白さを生徒が感じられるように、やさしく解きほぐして説明することが大切です。
また、私自身が表面的な理解に止まることなく、
物事を深く理解し、それを適切に伝える力が求められます。
この点については、読者の先生方の中にも共感し、同じように努力されている方が多いのではないでしょうか。
さらに最近、井上ひさしさんの言葉の中でも、
「まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」
という部分が「明朗性」と深く関係していることに気づきました。
「明朗性」とは、表情が明るく柔らかいこと、伝える内容にうそやごまかしがないこと、
そして周囲を楽しい気分にさせるような雰囲気を醸し出すことです。
この周囲を楽しい気分にさせる「愉快さ」こそが生徒に響く重要な要素です。
教師が「愉快な表現」をするためには、
心にゆとりやしゃれっ気、いわゆる「遊び心」を持つことが欠かせません。
ただ真面目であるだけでなく、遊び心を持ちながら教職に向き合うことで、
生徒とのつながりが深まると感じています。
個々の教師がこの「明朗性」を備えていることはあるものの、
社会全体においては、教師の「明朗性」が十分に理解されていないのではないでしょうか。
「熟練性」と「明朗性」を兼ね備えた教師は、
生徒に専門知識をわかりやすく、楽しく伝える存在になるだけでなく、
教育現場全体にもポジティブな影響を与えるでしょう。
教職が「ブラック」と称される現代において、私たち教師が熟練性を磨きながら明朗性を発揮し、
「教師役割の魅力」を取り戻していくことが求められています。
最後になりますが、生徒に対する不登校の未然防止策に取り組むことはもちろん大切です。
しかし、それと同時に、周囲が慌ただしくても、
「教師役割の魅力」をじっくり見直し、高めていく努力を怠らないことも、
不登校の未然防止策に、ひいては未来の教育にとって重要であると考えます。
<引用文献>
井上ひさし『the座』(1989)、東京:こまつ座
井上ひさし『ふかいことをおもしろく』(2024、PHP文庫)
河村茂雄『教師のためのソーシャル・スキル-子どもとの人間関係を深める技術』(2002、誠信書房)
文部科学省「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の
諸課題に関する調査結果について」(2024)
【プロフィール】
2015年から会津大学文化研究センター 教授 兼 学生部長
専門領域は「教育学」「教育カウンセリング心理学」
研究テーマは教育困難校での支援