専門学校よりも大学のほうが将来の可能性が広がる、
というアドバイスで大学進学を選んだ生徒はその年の秋に学校に来ると、
来年3月で退学して専門学校に入学すると言った。
大学の勉強はそれなりに興味深く面白いが、その先に自分の将来が見えない、
自分の将来像はやはり専門学校で得た資格で働く姿だ。
しかし、入学したからには1年間はきちんと勉強したいので
1年生は終了して退学する。
報告の内容は以上のようなことだった。
翌春、1年生の全単位を取得の上で退学したこと、
入学時に納付金の一部を借りた親戚に返済するため
専門学校入学は1年延期してアルバイトすることを報告に来た。
そして、大学生活は無駄になったとは思わないし進学したことに後悔はないが、
指定校推薦で入学しながら1年で退学して、
学校や後輩に迷惑をかけることにならないかと気遣った。
聞いているこちらのほうがいたたまれない。
その生徒の卒業後に私は新1年担任に入った。
その学年では同じような場面に出会うことはなく、
生徒たちはそれぞれの進路に進んだが
あのできごとについてはいろいろと考えることはあった。
あのとき、生徒が言った「資格を得るため専門学校に行きたい気持ちと
大学に行ってもっといろいろなことを勉強したい気持ち」を
私は「専門学校進学と大学進学の間で迷っている」と受け取ったが、
どうやらこれが不正確だったのではないか。
「資格を取るため専門学校に行きたいが大学も気になって決めかねている」
ではなかったのか。面談でも資格や将来の職業については具体的に語ったが、
大学で学ぶ目的や学部の選択理由については今一つだった。
それではなぜ「専門学校宣言」をしなかったのか。
その生徒は前回紹介の「孤軍奮闘」の生徒のように
自己主張ができるタイプではなく、周囲の空気を読み、
自分を抑えて周囲に気を遣う性格だった。
そこにほとんどの成績上位者は指定校推薦での進学を希望しているという
「同調圧力」がかかったのだろうか。
さらに我々教員の間にあった成績上位者が大学進学をするのは当然、
という雰囲気を感じ取ったのかもしれない。
そしてそれらが「迷い」となり、その迷いに対して私が大学進学を勧める、
という最善とは言い難いアドバイスをしたのではないか。
その後私は進学と就職、大学と専門学校、A社とB社等々、
迷っている生徒にさまざまな問いかけで対応することにした。
それぞれの進路について考えたきっかけ、
魅力や不安、将来のイメージ、家族や友人の反応等々。
そしてときには生徒の学校や企業、学問や職業に関する質問に答える。
対話するうちに生徒の本音が見えてくる。
同時に生徒本人も気持ちが整理できて自分で結論が出せるようにもなる。
進路指導では生徒が自分自身で、少なくともその時点においては
納得のいく答えを見つけさせることは大切だ。
【プロフィール】
元都立高校進路指導主任・
多摩地区高等学校進路指導協議会事務局参与/
キャリア教育支援協議会 顧問
1976年より都立高校教員。
2004年より都立拝島高校勤務、
2010年より進路指導主任として主に就職指導に当たる。
2019年3月定年退職。
