「教室での学びを支える“見えないやりとり” ―交流分析の視点から―」筆者・苅間澤勇人

交流分析のPACモデルを紹介してきました。
今回は、それらが教室の中でどのように働いているのかを、
コミュニケーションの視点から考えます。
交流分析では、人と人とのコミュニケーションを
「どの自我状態から、どの自我状態へメッセージが送られているか」
という観点で捉えます。これを「やりとり分析」といいます。
授業において中心となるやりとりの一つは、
教師のA(成人)から、生徒のA(成人)へのメッセージです。

例えば、「この問題は、どの公式を使うといいかな」
「資料から読み取れることを三つあげてみよう」といった問いかけは、
事実や根拠に基づいて考えることを促すAからAへの働きかけです。
これに対して生徒が、「二次関数なので、この公式を使います」
「グラフの変化から、次のことが言えます」とAで応答する。
このAとAのやりとりが、授業という営みの土台です。
そこでは、感情的な上下関係ではなく、「一緒に考える」という水平的な関係が成立します。
しかし、実際の教室では別のやりとりも少なくありません。
教師のPの中のCP(批判的な親)から、
生徒のCの中のAC(順応した子ども)へ向けたメッセージです。
「なんでこんな簡単なことができないんだ」「ちゃんとしなさい」「指示通りにやりなさい」。
これらは、一見すると指導として自然に見えます。
しかし、CPからACへのメッセージが続くと、生徒は次第に「考える主体」ではなく、
「叱られないように従う存在」になりやすくなります。
発言が減り、間違いを恐れ、挑戦を避けるようになります。
やがて授業は、AとAの学習の場ではなく、
CPからACへの管理の場へと変質してしまいます。

もちろん、CPが必要な場面もあります。
安全指導や規律の保持など、明確な枠組みを示すことは重要です。
しかし、それが授業全体の基調になってしまうと、生徒のAは育ちません。
教師は、「今、自分はどの自我状態から語っているか」を自覚することが大切です。
説明や問いかけはAからAへ、励ましや共感は、NPから生徒のC(特にFC)へ、
ルールの確認はCPからACへ、というように、
意図的にやりとりを選ぶことで、教室の空気は大きく変わります。
授業がうまくいかないとき、「生徒が受け身だ」「反応が薄い」と感じることがあります。
そのときこそ、生徒を見る前に、自分の発信源を振り返ってみることが有効なのです。

前回も述べたように、教師がAで関わり続けることで、
生徒のAを引き出せる可能性が高まります。
やりとり分析は、テクニックというより“見方”です。
教師がA(成人)で立ち、生徒のAを信頼する。
その姿勢こそが、学び合う授業を支える基盤になるのです。
信頼や安心は、一朝一夕に築かれるものではなく、
日々の丁寧な関わりの積み重ねによって築かれるものです。
これからもお互いを大切にしながら、あたたかな関係を育んでいきたいものです。

最後に、私がこのコラムを担当するのは、今回が最終回です。
記したことが、皆様のお役に立っていることをイメージし、
自分自身を振り返りながら楽しく書かせていただいた二年間でした。
お読みくださり、誠にありがとうございました。

引用文献
イアン・スチュアート, ヴァン・ジョインズ(2022).
 TA TODAY:最新・交流分析入門 第2版 実務教育出版

【プロフィール】
会津大学文化研究センター 教授 兼 学生部長
2015年から現職。専門領域は「教育学」「教育カウンセリング心理学」
研究テーマは教育困難校における支援