進路コラム ふるさと 筆者:宇佐美 正利

進路コラム

ふるさと 筆者:宇佐美 正利
宇佐美 正利 2015年3月24日(火)

額を押しあてた車窓から遠く観音像が望まれた。
左回りに遠ざかってゆく観音は
少しずつ俯いていくように見えた。
見送りの門口で声をあげて泣いた人が重なった。
観音が霞んで消えたのは距離のせいではない。
40年も昔のことである。

新しい生活への希望とともに上京する新卒者は多かろう。
一方で、ふるさとを追われた上京もある。
〈ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの〉
金沢市内を流れる犀川のほとりに生まれた室生犀星は、
出生の事情から親族に捨てられ養子先からも虐げられ、
ふるさとを捨てた。

困窮の果てにすがる思いで帰ったふるさと。
そして現実。幻滅と絶望のどん底で詠ったのである。
〈異土の乞食となるとても 帰るところにあるまじや〉
このとき犀星にとっての“ふるさと”は
抽象化され真実となった。
3月26日は犀星の命日である。

旅立ちの季節。
この美しくも悲しい“ふるさと”を卒業生たちには詠ってほしくない。
折しも北陸新幹線が開業した。
地方から大都会への移動時間は短縮されるばかりだ。
その分、車中では整理しきれぬ想いが残るのかもしれない。
残してゆくがいい。

著者プロフィール

宇佐美 正利 (うさみ・まさとし)
1956年、群馬県生まれ。早稲田大学卒業。
学生時代、会話の苦手な自分を「人と話さざるを得ない環境に追い込む」ため、2年次に北海道別海町の牧場にとび込み1か月の労働。「人それぞれの居場所の大切さ」を知る。4年次5月〜翌3月にヨーロッパ、アフリカ、アジア18か国に遊学。「縦以外の価値観」を実体験する。
教育産業界に35年。高校内での進路講演を年間70回以上実施。情報提供ばかりでなく「考え方」の提案に努めている。

◇編著書
『才能と仕事のベストマッチング』(大学新聞社) 2011年11月11日

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