小論文指導の第一人者・堰免善夫先生の教育・文化随想 新年・大変革時代への適応(はたして22世紀はあるか?)

  • 保護者の方
  • 教諭の方
  • 編入学希望の方
  • スキルアップ希望の方

小論文指導の第一人者・堰免善夫先生の教育・文化随想

新年・大変革時代への適応(はたして22世紀はあるか?)
2018年1月5日(金)

 新しい年、2018年が明けた。21世紀も17年間を生きてみると、地球世界と日本社会は何百年に一度と言えるばかりの激変である。近代から現代へと時代は推移してきたが、現代そのものが急激に大きく変わり、まさに[異変現代]を迎えたと言ってもよい。
 地球世界においては「自然環境破壊の進行」「高度情報世界の進展」そして、日本社会においては「高齢化・少子化の急進」。この変化の進行はまことに著しい。
 前代未聞の暗然たる不安を抱えた2018年の新年は、我々にいかなる重且大じゅうかつだいなる事態をもたらすのか。それに対して我々は、いかに適応・対処し乗り越え得るであろうか。

 変化の時代には、何より自己自身が変身しなければ、その激流に押し流されることは必然である。昨日の続きで今日を生き、今日の続きで明日を生きるだけでは、世の中や世界がいつの間にか激変しつつあるのに自己のみが相変わらずでは、気がついた時には「自己亡失じこぼうしつ」の憂き目う めを見ることになろう。
 確かに、短眼で、その日暮らしを眺めていれば、頻発する異常気象も、乗客のほとんどがスマホに心を奪われた姿の異様態も、どこに行っても老齢者の姿ばかりが目立つ異景も、昨日と同じであったと、別に不思議にも思わず、知らず知らずのうちに「慣れっこ」になっている。そして、そのことについて自分自身も、他人も気がつかない。
 そうこうするうちに今の世代の人々は皆亡くなり、次の世代となるが、次の次の世代は、もはややって来ないなどとは思いもしないであろう。
 これは虚言きょげんていしているのではない。長眼巨視ちょうがんきょしで、あと80年程で訪れる22世紀を視野の中におさめ、一段高見から俯瞰ふかんしてみれば、必然的帰結として、背筋が寒くなる恐ろしさが実感されるであろう。
 考えてみれば、一体いつからかくの如き自然環境破壊、高度情報化、高齢少子化が始まったのか。いや、我々はいつからそれを身近に実感するを得たか。不思議なことにと言うべきか、当然のことにと言うべきか、この3大激変は軸を一にして、前世紀末の1990年頃、つまり今から30年程前に、我々の身近に迫り、急激に表面化したのである。
 もちろん、この3大変化は、それよりかなり以前から始まっていたのであるが、我々は愚かにも気がつくのが遅かった。そしてもっと愚かだったのは、気がついてからも、それを重大事と思わず、30年間も、腕をこまねいて過ごした。いや、むしろその進展に拍車をかけていたと言うが妥当だとうであろう。
 しかし、「いや、そうではない。上記既述の見方はあまりにも一方的で皮相の見ひそう けんである」と言う、一部の心ある人々もいるであろう。その「先見の明せんけん めい」を有する人々の、以前からの地道なる「激変対応」は、実に貴重な努力であり、まさに敬服にあたいする。そのような優れた人々の代表例として「松下電器産業(現・パナソニック)」の在り方を紹介し、もって我々の自己省察と、新年の新たなる決意に資したいと考える。
 
 時代の先駆を生きる「松下電器」の人々のすさまじいまでの努力は、ひとえに、創立者・松下幸之助氏の経営理念の精神とその伝統血脈によっている。
 「経営の神様」と讃えられた松下幸之助の創業理念は「産業人たるの本分に徹し、社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与せんことを期す」である。「社会生活の…」により日本国民への貢献を、「世界文化の…」により世界人類への貢献を必ず果す。それが松下である。この共存共栄と自主責任経営の「経営理念」が従業員一人ひとりにしっかりと定着し、それがすべての「行動規範」となっている。
 このことの端的な例は「松下電器はどんな製品を作っているのか?」と訪ねられた社員は皆「松下電器は人を作っています。あわせて電気製品を作っています」と答えることに示される。
 そのような松下であるが故、本テーマの3大激変に対しても、当初から素早く適正に対応していたのである。

1.環境共生のクリーン「創エネルギー」
 日本のエネルギー消費の1/4は自動車が占めている。これに匹敵する2番目が電気製品である。従って、その電器メーカーのトップとしての松下はエネルギーに対して大きな責任を負っている。その自覚は当初から全従業員が持っていた。
 松下では独自に「松下環境憲章」(環境管理基本方針)を制定し、全世界の事業場で環境保全活動を推進してきた。具体的には、使用済み商品のリサイクルに懸命に取り組んでいた。それまで必要な製品を消費者に届けてきた「動脈パイプライン」を、リサイクルの「静脈パイプライン」に還元して再利用。鉄は鉄、銅は銅として分解しながら再生する。一方で「鉛レス(鉛でない)ハンダ」「プラスチックに替えて、分解しやすい素材」など、使用済み後のリサイクルを考えた商品づくり――あらかじめ有害物質を除去した商品づくりを行ってきた。
 特に顕著な例として「環境共生のクリーンエネルギー創生」は素晴らしい。水素と酸素とを反応させ、化学エネルギーを「電気エネルギー」に変換する「燃料電池」。あるいは、太陽光発電、風力発電の「燃料電池化」にもチャレンジしてきた。
 20世紀末には、松下とトヨタ自動車との合弁会社である「パナソニックEVエナジー株式会社(現・プライムアースEVエナジー株式会社)」が創立されており、電気自動車(EV)用のニッケル水素蓄電池を開発、量産化している。この蓄電池はトヨタのハイブリッド車(HV)プリウスなどに搭載されている。

2.高度情報による教育・医療・介護システムの開発・導入
 光回線を用いた高速通信網を基盤とし、パソコンやモバイル機器(携帯電話・スマートフォン)を通して、瞬時に全世界に向けた情報の送受信ができる高度情報世界にあって、松下では、いち早く、その人間的利用、人間性への応用を図ってきた。文部科学省が企図きとした「全国の小・中・高等学校を衛星通信ネットワークで結び、大容量、高速で、情報が送受信できるインフラの構築」を松下は実現している。全国に約4万校も存在する前記の学校における、教職員の研修、教育高度化の教材などがこの通信ネットワークで送られてくるのである。

 医療については、松下では、すでに以前から、電子体温計・血圧計・血糖値計・画像診断用電子スコープ、データや伝送部を一つのセットにした「電子健康チェッカー」を開発している。この健康状態情報を、病院・介護支援センター・市役所・開業医などが共有し、介護に役立てる「介護支援システム」に導入し発展させている。さらに、大学・病院・介護施設(老人ホーム)などと一般家庭をネットワークでつないで健康支援にも貢献している。
 高度情報社会の到来は、まさに産業革命にも匹敵する何百年に一度の激変といっても過言ではあるまい。松下ではその激変に総力をあげて対応している。


3.高齢・少子化適正対応
 2050年には、日本の人口における65歳以上の高齢者の割合が35%まで増加。次いでイギリス、アメリカという順で、高齢化傾向は世界的に進行している。いずれも医療の充実による長寿が原因である。
 一方、出生率の低下による少子化も進行しており、このままだと、2050年を超える頃には、日本の人口は現在から3千万人以上も減少し、1億人を割るであろうと試算されている。この高齢少子化は、企業社会においては、労働力減少となることは必至である。
 松下では、これに対応し、2001年よりすでに60歳以上65歳までの再雇用を行う「ネクスト・ステージプログラム」を発足。定年後のネクストステージを会社と従業員が一緒に考えながら、新しい仕事を始める。さらに定年の上限を70歳まで延長、最終的には定年廃止も検討している。
 もちろん、生産部門では「高齢者が取り扱いやすい製品」の製造、あるいは「バリアフリー社会」に関する新製品の開発など、高齢者向きの新しいサービス・ビジネスに真剣に取り組んでいる。


 以上が「松下電器」を一例とした3大激変に誠実に対応努力している人々の紹介である。しかしながら、これらの人は全体から言えばわずか少数の人々である。総体的見地から言えば、この事態が、このまま進行推移を続ければ、もはや対応は不可能な大変な事態になる。
 国際世界における「核兵器問題」の現状、二酸化炭素削減を中心とする「温暖化対策」の現状を考えると、実に深刻な状況である。

 3大激変問題に対しては「対応」のみでは「焼け石に水」の観はまぬがれない。根本的問題としての「思想変革」が必然である。それなくして解決はない。
 20世紀中頃には、すでに「キリスト教の神」は亡くなった。キリスト教欧米世界において巨大な力を持ったのは「神」に代わって「科学技術と市場経済」である。臆断おくだんすれば、神に対置たいちする「科学技術と市場経済」が巨大な力を持ったことは、すなわち「神の死」を意味することに他ならない。
 それでは、キリスト教欧米先進国では、「信仰」が失われたのかと言えば、そうではない。新たに「科学技術と市場経済」が神に代わり信仰の対象となってしまったのである。

 アメリカ・ハーバード大学の宗教学教授ハービー・コックス博士は、その著『The Market as God(市場という神)』で主張する。博士はまず「世俗性(secular)と世俗主義(secularism)」を明確に区分。そして「宗教と世俗性とは決して相反しない」が、「宗教と世俗主義とは完全に相反する」と言う。次に「宗教は現実の世界、世俗に生きる人々のためにある。一方、世俗主義は、物、金銭、富などの価値観こそ最上のものとする。宗教のドグマ(教条きょうじょう)性を否定しながら、世俗主義のドグマを人に押しつける。その世俗主義の根底・背後には『市場という神』をあがめる信仰がある。だから『キリスト教の福音(God News)』を聞きながら、その神は市場なので人々は意気消沈するのである」。そして「ゆえに『to have』から『to be』へ。つまり『どれだけ持っているか』ではなく『どのように生きているか』に価値観を置くべきである。これがコックス博士の主張である。現代欧米人は「市場経済」を深く信仰している。

 現代欧米人の「科学技術」信仰は、すでに20世紀、近代科学から現代科学になった時から始まっている。そして、その供物くもつ供え物そな もの)の極みは「核兵器」である。
 まさにキリスト教先進国を中心とした現代人は「科学技術の神」と「市場経済の神」という2つの強力にして巨大な神を信仰している。ゆえにこの激変事態は、止まるところを知らず、地球世界破滅への一途を辿っている。

 今こそ世界人類は「神」を取り戻し、「仏」をあらわさなければならぬ。もはや狭き宗教間争いは即座に止め、「22世紀・人間世紀招来」の叫びと共に、すみやかに「世界宗教会議」を開催し、大同団結して、「科学技術と市場経済」自体の横暴と、それを信仰する現代人の妄信を「意を決して断ち切らねばならない」。
 それをこそ、2018年の年頭にあたり、強く提唱するものである。

著者プロフィール

堰免 善夫 (せぎめん・よしお)
長野県生まれ。中央ゼミナール(東京・高円寺)で国語科講師として活躍。小論文、現代文を担当し約40年間勤務。中央ゼミナール監事・役員・小論文主任講師の他、大学新聞社就職コンサル塾副塾長、東京国際学園特別顧問を兼任。
近年は全国の高等学校での高校生、保護者、高校教師対象の講演だけでなく、大学生向けの就職支援の講演会にも登壇している。


◇著書
『古の琴歌(いにしえのことうた)』 (小説作品集) 1987年5月
『知見の旅路』 (思索論文集) 1997年5月
誰にでも書ける 小論文学習の決定版 最も効果的な指導・学習法』 (大学新聞社) 2013年3月
『我が心の久遠・哀愁のヨーロッパ・憂愁の京都』 (紀行随想) 2013年12月

「進路ナビ」では、進路情報研究センターからの各種最新データや講師によるコラムを配信しております。ぜひ日々の進路指導に、ご活用いただけますと幸いです。

記事一覧

>> すべての記事を見る
  • 講演講師ナビ
  • 大学新聞定期購読キャンペーン
  • 進路コラム
  • 書いて考えるシリーズのご案内
  • 進路ナビゲーションのご案内
  • 就職懇談会のご案内
  • 進路アドバイザー検定
  • キャンパスアクター