小論文指導の第一人者・堰免善夫先生の教育・文化随想 「明るい未来を拓くスーパー農学」(21世紀の地球救済学)

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小論文指導の第一人者・堰免善夫先生の教育・文化随想

「明るい未来を拓くスーパー農学」(21世紀の地球救済学)
2017年7月1日(土)

 21世紀も十数年を過ぎ、地球温暖化・飢餓・砂漠化さらに大気・海洋汚染、そして、核とエネルギー問題等々、いずれも人類の生存をおびやかす地球規模の深刻な事態が起きている。これらの世界を覆う暗い世相を反映し、人間の刹那的せつなな非行・犯罪や無差別テロなどが横行おうこうしている。果たして地球と人類の22世紀はあるのだろうかとさえ危惧される。まさに由々しき思いに駆られているのは筆者だけではなかろう。

 地球環境の破壊と人間精神の荒廃は全く一つの問題である。このまま事態が進行すれば地球の未来も人類の将来も確実に暗黒の絶望に至るであろう。
 しかし、ここに「明るい未来を拓く地球救済学」がある。それはまさに【スーパー農学】と呼ぶにふさわしい、英知の開拓である。農学は、以前は「農業のための学問」とされていた。しかし、今日こんにちの21世紀農学は、環境問題を中心として、エネルギー・緑化・食料(食糧)・健康・栄養等々、幅広い分野にわたり、人類の生活基盤にかかわる問題解決のための総合科学の役割を担っている。さらに、農学はバイオテクノロジーの急激な進展により、21世紀世界の子供達に、明るい未来を提供する先端科学でもある。それこそまさに【スーパー農学】と呼ぶにふさわしい待望の学問である。
 創立130年に迫る東京農業大学においては、多くのスーパー農業研究者達が、様々な分野できわめて創造的な研究成果を生み出している。本稿では、その興味深い事例のいくつかを紹介し、読者と共に「明るい未来」を共有したいと思う。


(1)食糧危機の救世主【イモ】
 救荒作物の筆頭はなんと言ってもイモ類である。イモほど環境に強い作物はない。イモ類は、ジャガイモ・サツマイモ・サトイモ・山芋(ヤムイモ)・タロイモ・キャッサバ等はよく知られているが、世界には他に70〜100種のイモ類がある。イモは地下部に食用となる貯蔵器官があることから、低温や干ばつなどの気象要因の影響を受けにくく、環境悪化に十分対応できる。また無肥料でも収穫が確保できる優れた能力を有している。米・麦・トウモロコシなどの穀穀物類に比べ、タンパク質、食物繊維、ミネラルの含有も高く、消化にも優れており、健康食品の代表と言える。
 このように素晴らしい作物が、なぜ世界の主食の座を穀物類に譲ったのか。それはイモ類が穀物に比べて水分含有量が多いため、腐敗しやすく貯蔵性や輸送性に欠ける点にあった。しかし、そのような弱点があっても、イモは穀物が育たない乾燥地帯のアフリカ諸国、エチオピア、タンザニア、カメルーン、ナイジェリア、ガーナなどでも主食として収穫できるのである。
 東京農業大学では、イモ類の保存性を高める加工技術の開発、デンプンの薬品、甘味料への利用拡大、タロイモのヌルヌル成分の解毒作用効果、さらにキャッサバから抽出されるアルコールによる代替ガソリンの自動車燃料開発などにめざましい研究成果をあげている。山芋(ヤムイモ)は、強壮、健胃などの薬効を有する他、驚くべきことに経口避妊薬(ピル)の原料になる種もある。生産においても、このヤムイモは乾燥に強く、しかも1株当たり40〜50kgに達する大きさのものまである。一方、タロイモはレンコン以外の作物が栽培不可能な湿地帯でも生産できる。さらに、イモ類は畜産飼料作物としての可能性も大である。
 イモはまさに万能食料であり、万能栽培作物である。21世紀の飢餓時の食料資源としてイモこそ食料危機を救う救世主No.1である。

(2)フルーツの救世主【超巨大種無たねなしブドウ】
 ひと粒がゴルフボールの二回りも三回りも大きい【超巨大種無しブドウ】が出現したことを知っているだろうか。
 巨大粒果のブドウと言えば、すでに山梨県の民間の育種家により『藤稔ふじみのり』という品種で実現されていた。これは1粒で15〜18gにもなり、紫黒色で果肉は巨峰よりやや柔らかく、酸味がなくさっぱりした味と食感を持つ。唯一の欠点は、枝が急激に広がる5〜6年生時に果粒の裂果が増える(実が急に大きくなり皮が破裂する)ことから伐採してしまう農家が多いことである。せっかく実っても、みんな裂果してしまえば、作る甲斐がないからである。しかしこの急成長期の裂果を乗り越えることができれば、樹も果実も安定し栽培しやすくなる。東京農業大学ではこの技術の開発に全力で挑んでいる。
 この藤稔ふじみのりに「ジベレリン処理」をすれば種無しとなりもっと巨大化する。果実の成長発育を促進するホルモン剤であるジベレリンの使用により、ブドウの種無し品種を誕生させたのは日本人の研究成果であった。しかし種無しブドウは種有りブドウと比べて小粒であることが難点であった。
 だが、日本人の優れた技術により、大粒種の『巨峰』や『ピオーネ』の種無しブドウができるようになり広く世界に普及した。そして巨峰よりもさらに大粒の品種を望む消費者の声も高まった。
 そのような背景のもとに『藤稔』が誕生したのである。そして1999年、山梨県において『藤稔』に「ホルクロルフェニュロン液剤(Forchlorfenuron/細胞分裂促進・細胞増加促進の働きを持つ植物成長調整剤)加用」を行ったところ、なんと43g(通常の藤稔の3倍)の超巨大種無しブドウが出現した。ゴルフボールとテニスボールの中間の大きさなので、一粒で充分満足できるフルーツとなった。
 当初、山梨県果樹試験場では「細胞数が一定のブドウ果においてこんなことはあり得ない。異常気象による突然変異ではないか」との見方をしていた。しかし、東京農業大学では「前年蓄積の貯蔵養分が多大であると細胞数は増加する」との研究成果があがっている。今後も期待大なる研究である。
 ブドウこそ世界の果実のキングである。ブドウは生食及びワインの原料も含めると、世界で生産される全果実のおよそ半分を占め、約150種類もの品種がある。もし、種無しブドウ一粒がグレープフルーツさながらの、それこそ超巨大グレープになれば、世界全体の果実の供給は安泰となる。まさに果実界の救世主なのである。


(3)食肉の救世主【エゾシカ肉】
 北海道では「野生エゾシカ」が爆発的に増加し、もはや環境収容能力をはるかに超えおよそ20万頭が生息している。天敵のエゾオオカミの絶滅、農地・牧草地の拡大により激増したのである。林縁部から人里に下り、農作物や牧草を食べるばかりでなく、越冬期には樹木の皮を剥がして食べるなどの環境への被害が続出している。経済的打撃だけでなく、交通事故や子供の怪我などの人的被害等々、各地でエゾシカと人間の軋轢あつれきはますます増加の一途をたどっている。
 食用としての鹿肉は実は最高レベルの食肉なのである。日本では食肉文化が始まって以来、牛肉・豚肉の他は「かしわ(地鶏)」「さくら(馬肉)」「ぼたん(猪肉)」「もみじ(鹿肉)」と、鹿肉はあまり重視されてはこなかった。しかし、鹿肉の美味しさと栄養価は抜群である。ヨーロッパでは、Venisonベニスン(鹿肉)はクリスマスや誕生日・結婚式など特別な日のお祝いに高級レストランで食す特別料理である。特にドイツやハンガリーでは野生の鹿肉を最上級としている。
 野生エゾシカ肉の特性は、牛肉・豚肉・鶏肉の同じ部位と比較すると「高タンパク質・低脂肪」が顕著である。ミネラル含有値が高く鉄分も豊富。貧血症等には最大効果があると言われる。生活習慣病の要因についても他の食肉より低く、コレステロールも少ないことから、肉質の評価は高い。栄養学的に優れたヘルシーなエゾシカ肉は、健康の維持・増強の他、動脈硬化、心疾患などの持病を持つ人のタンパク源としても最適なのである。

 エゾシカの被害が続出する北海道では、とりあえず有害鳥獣駆除として狩猟目標を約8万頭に定めたが、駆除されたエゾシカの肉は、ロースやモモのほんの一部が食用として食卓に上がっているにすぎず、ほとんどすべてが捨てられている現状である。購入飼料皆無の天然の鹿肉を無駄にするのは何とももったいない話である。
 捕獲後、速やかな処理(内臓の除去と充分な放血)が行われたエゾシカ肉は、柔らかく滋味にあふれ、臭いもクセもなく絶賛される美味しさなのである。新鮮なうちの刺身、ステーキ、すき焼きなど、どの料理でも本当に美味である。
 北海道網走市の東京農業大学・動物資源学研究室では、狩猟による駆除の他に、美味しい時期の鹿肉が求められた時に必要量を供給するため、生体捕獲したエゾシカを飼育して出荷する方法の研究を進めている。
 エゾシカの食欲は夏に高く冬に低いこと、餌の九枚笹クマイザサにビートパルプ(甜菜てんさいから砂糖分を抜いたもの)を組み合わせると、鹿にとっても人間にとっても栄養バランスが格段に改善することなどがすでに明らかになっている。
 日本も新たな食文化をひらき、エゾシカ肉が国内の食卓に上がるようにし、かつ海外にも輸出できるようにしていけば、21世紀の食肉文化は明るいものとなろう。


(4)万能生産者【昆虫】
1.野生絹糸(シルク)昆虫
 カイコが作るまゆから生糸・絹糸(シルク)ができることは誰でも知っていることであろう。
 明治時代の日本においても、養蚕ようさん生糸きいと産業は基幹産業に位置づけられた重要な産業であった。しかし、20世紀に入ると万能資源の石油から化学合成繊維のナイロン、ポリエステルなどが誕生、瞬く間に養蚕・生糸産業は衰退し、現在ではカイコなどは見たこともない人ばかりとなった。
 ところが、20世紀末になると世界の原油供給が危機となり、必要な原油のほとんどを輸入に依存している日本は、まさにオイルショック時代となった。そこで再び絹糸(シルク)が光輝あふれる期待を担って登場するのである。
 カイコ以外にも様々な昆虫がシルクを生産することをご存知であろうか。蚕の10倍近い大きなまゆを作るインドの『タサールサン』、金色に輝く繭を作るインドネシアの『クリキュラサン』、そして、アフリカにはラグビーボールほどの大きさの繭を作る『アナフェ』など様々な昆虫種が存在するのである。日本でも緑色のグリーンシルクの繭を作る『天蚕テンサン』が古くから知られていた。
 これらの昆虫は【野生絹糸(シルク)昆虫】と呼ばれている。現在ではこの『野生絹糸(シルク)昆虫』から、次々に『ワイルド・シルク』製品の開発が始まっている。『ワイルド・シルク』は、まさに独特の風合いや糸構造などから、最高ランクの人気の高まりが期待されている。
 東京農業大学では、【野生絹糸(シルク)昆虫】の研究が進展している。日本は元々カイコ生糸研究では世界をリードしてきた。その蓄積をもとに、シルクの持つ以下の特性を活かす方向での研究が進められている。

@シルクはアレルギーを起こしにくいタンパク質(生体親和性)
A雑菌を増殖させない機能(静菌作用性)
B紫外線をカットする。しかも、ワイルド・シルクは波長の異なるA波B波C波すべての紫外線をカットする。

 またシルクは、タンパク質の分子量を変えずに「液化」「ゲル化」「フィルム化」「パウダー化」ができることから、非繊維利用の全く新しい世界が開発されつつある。
 化学合成製品と異なり、シルクは最後までゴミにならず、使用済みのシルクもすべて様々な生物の栄養として自然生態系へ戻すことができるため、【生態系循環型リサイクルシステム】を可能とする、まさに万能生産者なのである。


2.不滅の生命体【昆虫】
 人類は出現以来、たかだか数百万年で「食糧不足」「地球温暖化」「オゾン層破壊」により『存亡の危機』に直面している。ところが昆虫は4億年の気が遠くなる年月を生き抜いてきた。
 昆虫は世界に約100万種弱存在することが知られている。そして、その数は全動物の2/3に達している。動物の大部分は昆虫であるということである。さらに、近年の熱帯降雨林の昆虫相の研究から、学者達は、地球上には1000万〜5000万種の昆虫が生存していると推定をしている。実に驚くべきことである。昆虫ほど地球環境に適応している生物はいないのである。

 東京農業大学では、早くから、この不滅の生命体【昆虫】の優れた機能を人類のために役立てようとする研究を進めてきた。
 例えば、昆虫の体を覆っている外骨格の硬い殻。かぶと虫の仲間であるゾウムシは、自動車にかれてもびくともせず、その鞘翔しょうし(硬い前足)はものすごく硬いにもかかわらず実に軽い。要するに軽くて丈夫な素材ということである。しかも、水を通さないという優れた特性も兼ね備えている。これを住宅の屋根や自動車のボンネット、スポーツ道具、ウェアなど人間生活の様々なものに応用したらどうであろうか、もしかしたら核シェルターにも使えるかも、などと夢はふくらむ。
 そして、昆虫の活用の極めつけは【昆虫食】である。何も驚くことはない。昔は皆、昆虫を食べていた。昆虫は貴重なタンパク源であるので当然のことである。
 筆者の故郷・信州長野県では現在でも「イナゴ」「蜂の子」「タニシ」などを好んで食べている。長野県人が日本一の健康長寿(現役で働いている超高齢者)であるのは【不滅の生命体昆虫】を食べているからかもしれない。

 実際、日常的に昆虫を食べる地域は多く、アフリカでは「バッタ」「芋虫」「蟻」が、タイや中国では「メイガ」の幼虫が、メキシコでも芋虫が食品売り場に並べられている。特にアリは万能薬用として珍重ちんちょうされている。眼を閉じて食してみると、こんなに美味しい食べ物はないのである。
 だが、原型そのままのバッタの類を食べるのは抵抗があるという人達も多いであろう。それもあり、欧米では昆虫を粉末状にした「パワー小麦粉」や「昆虫パスタ」などが登場してきている。

 以上、興味深い【スーパー農学】の事例を紹介したが、この他にも、世界一の万能薬食品になっている「納豆」。特に味噌汁に納豆を入れた納豆汁は、肉入りの味噌汁よりも何倍もの高タンパク食で、しかもコレステロールゼロの世界1の食物である。毎日、納豆汁を朝晩2回飲む、ただそれだけで他に何も食べなくても百歳長寿は目指せるであろう。また「緑茶」は健康維持成分の宝庫とされる。このように、食物が健康に好影響を与える事例を挙げればきりがない。
 食物だけではない。【糞学ふんがく】分野もスーパー農学に満ちている。豚、コアラ、ウサギ、リス、ネズミなどの多くの動物は「ふん」を食べる「糞食」である。それはなぜか。実は「糞食」こそ動物にとっての健康食なのである。例えば、コアラの子供であれば、母親が硬いユーカリの葉を食べて消化したものを離乳食として食べることにより、ユーカリの消化に必要な能力を獲得することが知られている。
 その他、古代生物マンモスを甦らせるバイオテクノロジー。エコシティを作る「都市の農村化」、緑地による「防災効果」。「砂漠の緑地化」、「森林の無限効果」などなど、東京農業大学の【スーパー農学】は、100を超える分野において進展している。
 まだまだ書きたいことはたくさんあるが、紹介を続ければ限りがないので、ここで筆を置くこととする。

著者プロフィール

堰免 善夫 (せぎめん・よしお)
長野県生まれ。中央ゼミナール(東京・高円寺)で国語科講師として活躍。小論文、現代文を担当し約40年間勤務。中央ゼミナール監事・役員・小論文主任講師の他、大学新聞社就職コンサル塾副塾長、東京国際学園特別顧問を兼任。
近年は全国の高等学校での高校生、保護者、高校教師対象の講演だけでなく、大学生向けの就職支援の講演会にも登壇している。


◇著書
『古の琴歌(いにしえのことうた)』 (小説作品集) 1987年5月
『知見の旅路』 (思索論文集) 1997年5月
誰にでも書ける 小論文学習の決定版 最も効果的な指導・学習法』 (大学新聞社) 2013年3月
『我が心の久遠・哀愁のヨーロッパ・憂愁の京都』 (紀行随想) 2013年12月

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